【グリホサート26】~めぐり巡ってめぐり過ぎ。ADI値0.1の謎がようやく解明。
はじめに
「健康リスク管理のための世界的農薬基準値の検討:レビュー」の4章5節 「農産物において広く使われている農薬の推定暴露量の分析」では、グリホサートのADI値が0.1mg/kg/dayに設定されている。(下図の青の点線)
グリホサートの残留基準(ADI)は、世界各国でさまざまだ。
代表的な値として農薬評価書グリホサート(食品安全委員会2016年7月)で紹介されているのは0.5、1.0、1.75(mg/kg/day)などである。
・日本 1(2016年)
・JMPR(合同残留農薬専門家会議)1(2004 年)
・EFSA(欧州食品安全機関) 0.5 (2015 年)
・USEPA(アメリカ合衆国環境保護庁)1.75(2002 年)
論文で使用されている0.1というADIは、上記のどの基準値よりも低い。
各国の基準値を当てはめてみるならば、論文上のデータはなんの問題もなく基準値以内ってことになる。
だが0.1となると話は別だ。基準値を超える農作物が全体の4.5割となる。
この差をどう理解すべきなのか?もう本当にいろんな所をぐるぐるしてしまった私。
今にして思えばなんでそんなに巡ってしまったのだろう・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)・・・・・
我ながらゾッとする。
その経過はこちら↓ (ゾッとしたいヒトにおすすめ)
だがようやく雲間から一筋の光が差した!!
おお~これだ!私の求めていた答えは!
灯台下暗し、青い鳥、そんな言葉が似つかわしい。
ADIの定義
論文中ではADIを以下のように定義している。
つまりADI=NOAEL(最小毒性量)÷UF(不確実係数:100)ということなので、グリホサートのNOAELを100で割った数がこの論文で使用されているグリホサートのADI値だ。
※NOAEL:No Observed Adverse Effect Level(無毒性量)
何段階かの投与用量群を用いた毒性試験において有害影響が観察されなかった最高の暴露量のこと。
※LOEL:Lowest Observed Effect Level(最小影響量)
毒性試験において何らかの影響が認められる最低の暴露量。影響の中には有害、無害両方を含むので、一般には LOAEL に等しいかそれより低い値。
※UF:Uncertainty Factor(不確実係数)
動物試験の結果から得られた無毒性量等をヒトに当てはめる際に、動物とヒトの生物学的な違いなどから生じる不確実さによって、リスクが小さく見積もられることがないように、組み入れられる係数。「安全係数 (Safety Factor)」ともいわれる。
グリホサートのNOAEL
次にグリホサートのNOAEL(無毒性量)を調べてみた。
Glyphosate CASRN 1071-83-6 | IRIS | US EPA, ORDによると、経口RfDのNOELは 10 mg/kg/dayとある。
※経口RfD:Reference Dose for Oral Exposure(経口参照用量≒ADI)
※NOEL:No Observed Effect Level(無影響量)
毒性試験において影響が認められない最高の暴露量。影響の中には有害、無害両方を含むので、一般には NOAEL に等しいかそれより低い値。
という訳で、毒性試験でなんらかの異常はあったが無害な場合、NOELとして表現するので10mg/kg/dayを採用してよいだろう。
ADIの式に当てはめる
材料が出揃ったので、さっそく式に当てはめよう!
ADI=10mg/kg/day÷100
=0.1mg/kg/day
出たー!! ヘ(= ̄∇ ̄)ノ
各国の基準とのズレ
上記のように、ラットによる3世代生殖試験におけるNOAELを基準としてグリホサートのADIを求めると0.1mg/kg/dayになる。
この3世代生殖試験では、成人:30mg / kg体重/日、子孫:10mg / kg体重/日という結果になっている。ちなみにこの試験はモンサント社のデータが採用されている(Monsanto Company. 1981a. MRID No. 0081674, 00105995. Available from EPA. )。
試験結果は、ラットの生殖プロセスが低用量に敏感であることを示している。
このような試験結果があるのにも関わらず、現代科学はこれを無視している。
経済的都合かなにかで意図的に使わないのかもしれないが。
・日本 1(2016年)
・JMPR(合同残留農薬専門家会議)1(2004 年)
・EFSA(欧州食品安全機関) 0.5 (2015 年)
・USEPA(アメリカ合衆国環境保護庁)1.75(2002 年)
とにもかくにも基準値以下の低用量においても悪影響が懸念されることが1990年ごろにはすでに分かっていたはずなのだが、なぜか無視されている昨今なのである。
しかし「健康リスク管理のための世界的農薬基準値の検討:レビュー」という研究ではそうではない。ラットによる3世代生殖試験結果を無視せず0.1mg/kg/dayというADI値をあえて採用しているのだろうと思う。
ADI値を求めるにはNOAEL(無毒性量)もしくはLOEL(最小影響量)が鍵になる。
どの試験結果を採用するかは重要な問題だ。
私たちの健康や安全のためには、より低い値に注目することに意味がある。
だからこの論文で0.1というADI値を採用していることにはそれなりに意味があるのだ。